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アフガニスタン現地ナショナルスタッフの国外退避支援の要請書

8月のニュースは何と言っても、タリバンによる首都制圧、政権崩壊です。地方州都の制圧から首都陥落までのスピードは、現地のアフガン人も予想できなかったといいます。

私は、2005年から2018年まで、国際協力機構(JICA)がアフガニスタンで実施した教師教育プロジェクト、識字教育プロジェクトに従事しました。国づくりの基礎は教育から、ということでJICAも力を入れていました。2005年から2010年までは、毎年、2-3回、アフガニスタンに長期出張しましたが、治安は年を追うごとに悪化し、2010年以降、アフガンの地を踏んでいません。

多くの技術協力プロジェクトは、現地で中核となる人材の能力強化を研修で行いますが、私たちは現地の言葉が話せないため、通訳が必要となります。さらに、研修教材を英訳し、編集、印刷するためにはそうしたICTスキルをもった現地スタッフを雇用することになります。アフガニスタンの公用語はダリ語とパシュトゥン語のため、研修教材も2言語で用意しなければなりません。現地スタッフも、ダリ語、パシュトゥン語を母語とするスタッフを雇うことになります。それぞれのプロジェクトでは10人前後、それ以上の現地スタッフを雇用していたかもしれません。

現地スタッフと良い関係を築くことはとても大切です。日本人の働き方、考え方を理解して現地の人々に伝えてくれ、仕事をやりやすくしてくれることはもちろんですが、われわれの安全のために、巷の情報を共有してくれることもあります。そうした現地スタッフの命が、今、タリバンの復活で危険にさらされています。ムスリム以外の外国人に協力したアフガン人を、タリバンが探しているというのです。

今年6月、米軍とNATO各国軍が撤退を開始すると、タリバンが地方で徐々に勢力を拡大してきました。8月12日、北部バルフ州の州都マザリシャリフ(ここは識字プロジェクトの対象地区でした)に住む元現地スタッフが、「陥落が近い、できれば国外に退避したいが、日本にはそのような制度はないのか」と、識字プロジェクトの仲間に連絡してきました。私は、「何もできることはなさそう」と半ばあきらめていたのですが、ここから、驚きの展開。

ダメ元でもいいので、ともかく声をあげよう、ということになり、若い仲間が外務大臣あての要請書を作成しました。メンバーそれぞれが、アフガニスタンに関わりのある友人知人に要請書を添えてメールを送りました。賛同者の署名を集めるためです。メールにはGoogle formのURLが添えられていて、そこから名前を入力できるようにしてあります。

ある人がその要請書をFBにアップして広く周知したところ、それを見たメディアの方が是非、話を聞きたいということに。その結果、関係者の名前は伏せて、8月16日のNHK・BS2・国際報道2021で報道されました。ほかにも、是非、現地スタッフの話を聞きたいというメディアのアプローチもあったようですが、安全が保障されないということでお断りしたと聞いています。

報道より1
報道より2

国会で、大使館やJICAのために働いた現地スタッフの安全、国外退避の問題が公に議論されるようになったのは、この後のことだと私は理解しています。8月24日、日本政府は日本人、現地スタッフの国外退避のために自衛隊機を派遣しました。このことはネットを介してすぐに現地スタッフにも伝わりました。「自分がプロジェクトで働いていたことを証明して、自衛隊機に乗れるよう推薦してくれ、さもないと自分も家族も命が危険だ。近所の人は皆、自分がJICAのために働いていたことを知っている。」スタッフの1人から届いたメッセージです。彼のためだけに特別に何かすることは出来ません。しかし、何もすることなく初めからあきらめるのではなく、アクションを起こすことの重要性とともに、インターネットの影響力の大きさを教えられた出来事でした。



カブール便り

初めてアフガニスタンに渡航したのは2005年7月。到着後まもなく、日本の友人知人に書き送った「カブール便り2」が出てきました。写真を掲載したいのはやまやまですが、誰かに危害が及ぶことを避けるために断念しました。


2005年7月29日 カブール便り2

公休日

アフガニスタンの公休日は金曜日。カレンダーも金曜日が先頭に来ています。隣のパキスタンではグローバル・スタンダードにあわせて土.日が休みとなります。国際機関は金・土がお休みですが、現地では、木曜日が半日、金曜日が全休となっているので、JICA職員は週休2日、われわれプロジェクト関係者は週休1日。見ていると、JICA職員の方は土.日はゲストハウスに仕事を持ち帰りこなしている様子。今日金曜日は朝食後、日陰で読書をしながら、皆比較的のんびりと過ごしていますが、働き者の日本人は、中庭のテーブルを囲みながら仕事打ち合わせをしているグループもあります(農業関係のプロジェクト)。

英語・学歴

ゲストハウスで飛び交う言語は、日本語、英語、スペイン語、ドイツ語、ダリ語などです。圧倒的に日本人が多いため、受付のアフガン人は、「おかえりなさい、ありがとうございます、かぎ」など片言の日本語を話します。もちろん最低必要な英語も通じます。

われわれの英語力もさることながら、現地の人の英語力は業務遂行に非常に影響します。実は、ここカブールでは国際援助機関の間で優秀な現地人、通訳の奪い合いです。当然、彼らの報酬がつりあがる事になります。われわれよりも高給取りが実はたくさんいます。まさに、学歴(海外で教育を受けた人のUターン)、英語はアフガンでの成功の必須条件です。現カルザイ政権は新閣僚を組織するときに、高学歴を徹底し軍閥を排除しました。不満の原因の一部はこうして排除された軍閥にくすぶっているようです。一説によると、われわれのプロジェクトで現地の優秀な人を雇い入れようとすると、最低でも5000ドル/月を支払う必要があるそうです。教育のこともよく理解しており、なおかつ英語もできるアフガン人をプロジェクトの現地スタッフとして雇用するため面接を行っていますが、専門業務を英語でこなせる人材は非常に少ないのが現状です。というよりも、すでに、他の機関にとられていて、人材が残っていないのです。残念ながら、破格の条件を出して他のプロジェクトの人材をスカウトしてくることはJICAの予算では不可能なので、ツテを頼って面接を繰り返すことになります。

小野由美子@カブール